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百日咳

 最近、生後5ヶ月の典型的な百日咳とおとなの長引くしつこい咳、結果的に百日咳だった患者さんを2人も立て続けに治療しました。乳児の百日咳は無呼吸、けいれん・脳症、肺炎等重症化しやすく、またおとなの百日咳はなかなか診断にいたらず見逃され、長く咳に苦しんでしまいがちになります。いずれもそれぞれ問題を孕んでおり、こどもの百日咳、おとなの百日咳両方をともに診療する立場からこの厄介な感染症について解説します。
百日咳は百日咳菌、3種類ありますが主にBordetella pertusis の飛沫感染によって5~21日の潜伏期間の後、発症します。百日咳菌は線維状赤血球凝集素(FHA)などの働きで気管の線毛上皮に付着、増殖して産生された百日咳毒素(PT)が吸収され咳等の特徴的な症状が引き起こされます。ワクチン未接種の場合、典型的な百日咳の経過になります。くしゃみ、鼻水、咳などのかぜ様の症状が1~2週間程度続いた後(カタル期)、咳が頻回・連続的に出るようになり、続いた咳の終わりに特徴的な高音の息の吸い込みがみられ、最後に痰を吐いたりもしくは嘔吐して一連の発作が終了します(痙咳期)。表現するとコンコンコンヒュ-イ、コンコンコンヒュ-イ、ゲボゲボといった感じです。この間顔は真っ赤に紅潮、眼瞼はむくみっぽくなり(百日咳顔貌)、口唇は紫色になります。咳の発作は夜間がひどく、発作が無いときはまったく普通に見えます。発熱はほとんどみとめられません。6ヶ月未満の乳児では不眠・脱水・疲労等で入院が必要なことがあります。2ヶ月未満ですと無呼吸、肺炎、けいれんや脳症のため死亡することがあり油断ができません。この時期をうまく過ぎると、咳は発作的でなくなり回数も減少しますが咳自体はさらに数ヶ月続くことがあります(回復期)。
 検査では白血球数が異常に増加、少なくとも15,000以上、その中でリンパ球の割合が75%を越えてしまいます。
炎症反応CRPは高くなることはなく低値です。決め手は百日咳菌の培養同定ですが、開業の外来では困難で凝集反応やPTやFHAに対する抗体価の測定を施行します。凝集抗原には東浜株(ワクチン株)と山口株(流行株)が使用されます。山口株、凝集素価10倍以上を陽性としますが、陰性の場合でも感染を否定できないことがあります。実際、最近経験した5ヶ月の乳児では典型的な咳発作に加えて白血球が35,600 と著しく増加していましたが、凝集反応はともに陰性でした。 (新しい診断方法:下表)ptdiag.jpg
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 ワクチン既接種者(おとな)では様相が異なります。慢性の咳、いつになっても改善しない咳が平均で2ヶ月くらい続きます。咳は発作性に何回も続き、最後は吐きそうになることが多く、夜間には咳で目覚めて眠れなかったり息苦しくなったりすることが特徴です。実際に吐くことも少なくありません。咳が無いときは全くなんでもないようです。検査では白血球の異常はみられません。凝集素価は山口株が1280倍以上(もしくは山口株/東浜株>4)であれば百日咳と診断しますが、診断基準はいろいろのようです。当科での患者さんでは凝集素価は2560倍、1280倍等かなりの高値でした。
 予防は三種混合ワクチンです。こども達は生後3ヶ月より定期接種していることから、まだうけていない乳児、受けそびれた乳幼児学童が百日咳に罹患しやすくなりますが、外来の印象では抗体価の低下したおとなの方に罹患する人が多いようです。1度罹患してもあるいは予防接種を受けていても、感染防止に十分な抗体化の維持は永続しません。当科の外来でおとなの罹患者は年間3~5人程度で決して多い数ではありませんが、見逃されやすいので咳が遷延しているときには考慮が必要です。こどもの百日咳は数年に1人程度です。治療はマクロライド系(クラリシッド)の抗生物質の十分な服用、もしくはセフジトレン(メイアクト)の投与で治癒可能になります。2~3ヶ月の乳児では無呼吸等突然死のリスクがあることから入院加療が最善と考えています。


         ポイント: 典型的な乳幼児の百日咳はワクチンの効果でほとんどみられなくなっている。
              おとなの場合、抗体の低下のため実際には罹患者が少なくない。
              診断は従来の凝集反応よりPTIgG抗体価が精度から利用されるようになる。
              抗生物質(クラリシッド、メイアクト等)が有効。
[診断のチャ-ト]  

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[最新の診断基準案]
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